屋敷に戻ると、

お舘さま叔母上の光明院さまや

妹の松姫さまが、

涙を流しながら真由美の無事を喜んでくれた。


「お怪我はありませぬか?真由美殿が

攫れてから今日まで心配で、

ただご無事を祈っていました。」と光明院さまが言うと、


松姫が「真由美どの~!ご無事で良かった!

有馬での次々の作戦には、鳥肌が立ちました!

早速、武勇伝を詳しく教えてくだされ!」と言う。


苦笑する真由美に、よし乃さんは言葉なく、

目を潤ませ、ただうなずいてくれていた。


今夜は大広間で勝利を祝う宴が予定されているそうだ。


松姫が、

「真由美殿は戦功者なのだから、

思いっきり着飾って皆に祝ってもらわねば!!

着物や髪飾りを選びましょう!」とか言って、

ものすごく張り切っている。

いやいや、待って。

「違うの。西宮さんが命を懸けてくれたから。

私は、助けてもらった側だから…」と説明しても、

全く聞いてない。

衣裳部屋に連れていかれ、

次々着物を羽織っては剥がされ

着せ替え人形のように遊ばれているような…。

どれもこれもきらびやかで、

「私には似合わないって…」言っても、

やっぱり聞いてない。

日が落ちて、にぎやかに宴が始まった。

お舘さまが宴の中心で笑っている。

今日は無礼講ということで、

堅苦しい雰囲気はなく、

いつも以上に屋敷中、

自由な空気と開放感が漂っている。


御影は一人ひとり思っていた。

息をのむというのは、こういうことかと。

以前、真由美殿と出会ったとき、

宴で歌われたときなどは、

何も思わなかったし響かなかった。

それが今日の真由美殿はどうだ??

美しい。

輝いている。

素晴らしい。

ため息が出る。

有馬の里で見た時よりも、

一層いっそう生き生きしていて、

目が離せない。

化粧し、華やかにほほ笑み談笑する真由美殿。

きらびやかな着物に負けず劣らず、

なんと綺麗なのだ。

戦いを勝利に導き、

敬愛するお舘さまを助けて下さった真由美殿。

自分には出来ない事を、

簡単にやってのけた女子に、

心を掴まれてしまったようだ。

これまでお舘様一筋に尽くしてきた御影は、

突然の感情にうろたえていた。

気持ちをコントロールすることに慣れている御影が、

挙動不審極まりなく、おたおたしている。

誰の目にも不自然で、

久保田や鍋島がその様子に、

目を見合わせて忍び笑いをしていた。

か弱く見える笑顔の策士真由美は、

知らない間に、

堅物の御影を手中に収めていた。

宴は賑やかに催され、

勝利を祝い、楽しむ人達でお開きになりそうもない。

タイミングを見ていた真由美は、

お舘さまの側に行き、

戦勝祝の言葉を述べた。

「おめでとうございます。あの…」と言いかけた真由美に、

庭に出ようと言うお舘さま。

二人が並ぶと20cm以上も身長差がある。

お舘さまの後について歩く。

夜風が涼しい。

今までのお礼が言いたくて、

いろいろ説明したくて、

助けてもらって、

良くしてもらって、

ありがとうと言いたいのに、

言葉が出てこない。

黙ってお舘さまの側に佇んでいた。

不意に、

お舘さまが、

「真由美殿に感謝している。」と言う。

そして唐突に

「約束した者がおられるか」と問うてきた。

えっと、

唐突すぎて

言葉どころか息出来ない。

お舘さまの個人情報を

私何も知らないんですけど?

これは告白?なの?