敵将の春日光成は、

全く進展がないことに苛立っていた。



ひと月以上もかけ、密かに準備を進め、

襲撃する機会をうかがっていた。

そこへ、櫻正宗秀継重病の知らせが届いたのだ。



流行り病が本当かどうか確認させた。

兵庫港を混乱させ、

攻めるのは今しかないと。

好機がやってきたと思った。



なのに、その後の知らせが全くこない。

しびれを切らし、有馬の近くまで来ていた。



雨が降り続き、

まだかまだかと連絡を待って、作戦を練っていた。



そこへ襲い掛かる水だ。

雨に加え勢いを増した水が、

扇状地の陣地に狙ねらいを定めたように

四方から襲い掛かってくる。

逃げ惑う馬に兵士たち。

なにごとだ!



やっとの思いで難を逃れ、

濡れた体もそのままに、

日が暮れるのを待ち、命令を下す。

夜陰に乗じて、山道から攻めこむ。と。



動き出して間もなく、

鬼火が浮かびあがり、

人魂が揺れて、

相当数の松明が動き回っていた。

なんと!?



おびえて震える兵士たちに、

追い打ちをかけるように、

聞いたこともない音が、

耳や身体に、

食い込むような大音量が、

鳴り響いてきた。

なんだ?!



とどめは、

偵察の者が

重病の櫻正宗秀継の姿を見たという。

くそっ!!



兵士だけでなく、

獰猛残酷で知られる春日光成も、

戦意喪失していた。

櫻正宗の軍師はいったい誰なのだ!



櫻正宗側は三日三晩、川をせき止め、

川は大きな堀になった。



夜ごとの鬼火&松明&クラクションは

敵をおびえさせるに充分と思われた。



兵士の数を攪乱させ、

数でもかなわないと思い込ませた。

敵の反撃はなかった。



偵察が敵の撤退を確かめた。



徐々に、

みんなの間に安堵感が広がっていった。

作戦がうまくいって良かった。



ただ、死者は出なかったが、

被害がなかった訳ではない。

雨の中の作業や火事でけが人も出た。



真由美は思った。

西宮さんは重傷を負ったし、街の家屋も焼けた。



でも、けんか上等!

受けて立った!闘った!

櫻正宗は負けてはいない。

負けなかった!



しばらくは大丈夫だろう。

周辺諸国に手強い相手だと、

噂に尾ひれがついて、

櫻正宗ここにあり!と、

知らしめることができたから。



櫻正宗秀継も、

真由美に心底驚いていた



どこからかやってきた

面白き女子から

興味深い存在へ、

か弱い守るべき女子から、

共に戦う異性へと、

無意識の内に変わっていった。



容姿からは想像出来ない

行動力、判断力を合わせ持ち、

優しい心と豪胆さを秘めた、

軍師のように頭脳明晰な女子だと

側近達にも知らしめたのだった。