西宮は、不思議な夢を見ていた。



真由美殿を守っていたのに、

途中から非常に妙な具合だ。

木を払いのけ、

現れた白い箱に押し込められた。

真由美殿が胸元から布を取り出し、

着物の袖を引きちぎって、

手当てしてくれていた。

真由美殿が叫びながら車輪のようなものを握って、

弓矢よりも速く、鳥が飛ぶように、

有馬の里へ担ぎ込まれた自分。

集落の者が「西宮さまが縛られている」と言っている…



うっ!痛い…

動こうとして、身体中が痛む。

特に肩とこめかみが痛い。



奇妙な夢を見ていた。

変に生々しい夢から目が覚めた。と思った。

ぼんやりしていた焦点が定まってきた。



次の瞬間、はっきり覚醒した。

有馬の屋敷に寝ている自分と、

付き添ってくれている真由美の姿に混乱する。

真由美の無事を確認して良かったという喜びと、

夢と現実とがわからなくなり、肌寒さを感じた。



西宮は力には絶対の自信があった。

幼いころより鍛錬を積み、

今まで誰にも負けなかった。

弱いものをいじめる奴は許せなかったし、

自分を律して、力を驕ることなく、

弱き人を助けてきた。

やがて、その腕や人柄を買われて、

お舘さまのお近くに置いていただくようになったのは、

自身の誇りでもあり、西宮家の誉だった。



だが今回、自分の力を過信し過ぎ、

長時間真由美殿を危険に晒してしまった。



小刀を突きつけられた姿を見た時は、

怒りがこみ上げ、血が逆流したようだった。

間合があえば刺されていたかもしれない。

たまたま怪我がなかっただけなのだ。



それから、真由美殿は、

怪我をした自分を見捨てることなく、

見えない夜道を有馬の里まで、

身体を支えて連れてきてくれたのだ。



女子に助けられた。



西宮のプライドが、

価値観が、

美意識が、

武士道が、

安堵感が、

ミキサーにかき混ぜられたように、

ごちゃごちゃに混ざり、肩の傷よりも心の奥が痛む。

ふがいなさや、力不足や悔しさで涙が滲んだ。



真由美はその様子を見ていた。

やっぱり痛いよね。裂傷がひどかったし。と、

的外れに考えていた。



西宮が自分のふがいなさや、

力不足を嘆いているなんて

想像すら出来なかった。



怪我をしながらも命を懸けて守ってくれたことに、

ただ、ただ感謝していた。



「ありがとうございました。ゆっくり傷を治してください。」と

心から感謝してお礼を言った。