電子ロックが開錠された車内は、

お気に入りの空間そのままに、

いつもと何も変わっていなかった。



助手席側のドアを全開し、

座席は後ろに下げる。



傷の痛みを忘れた饒舌な西宮に

有無を言わせず、座ってもらう。

それでも

「真由美殿、これはいかがした」とか

何とか言ってるけど。

無視して、やるべきことのために、

てきぱきと動く。



西宮の上半身部分は血で染まり、

着物の色がわからないほどになっている。

痛そうに顔をゆがめる西宮に、

「ごめんね。」と声をかけて、

そっと肩をあらわにする。



車内灯を点けて確認する。

肩の傷は深かった。

とがったものが刺さったのか、

ぶつかったのか、

複数の裂傷になっていた。

刀傷では無さそうだ。

少しほっとする。



胸元に入れていたハンカチを取り出して、

傷に充てる。

その上から、

真由美の着物の片袖を引きちぎって、

止血する。ひとまず、これでいい。

村まで我慢してね。



真由美は

助手席のリクライニングシートを直立させ、

西宮にシートベルトを着けた。

トランクにあった牽引用のロープで、

西宮の身体を固定した。

これ以上ぶつけて出血しないように。

成り行きに、言葉を失くし目を見張る西宮。



真由美は急いで運転席に回る。

エンジンスタート!

ヘッドライトが草地を照らす。



「西宮さん!しっかりつかまって!」

叫ぶ真由美と

平常心を忘れた西宮



ぬかるみ、いしころ、窪地、勘弁!



今はただ一気に駆け抜ける!