有馬にて



かがり火が焚かれている集落は、

お舘さまからの命令に従い、

戦準備に追われている。



あたりが昼間のように明るくなっている中、

どこからか一頭の馬が現れた。



最初に気が付いたのは、「すず」だった。

火事の後、

村はずれの空き家に一家で移り住んでいた。

馬を驚かせないよう、

静かに、急いで、

戦準備中の両親を呼びに行く。



興奮して落ち着かず、

鼻息が荒い馬を父親がなだめ、

母親は飼い葉ばを、

「すず」は新鮮な水を汲み与えた。



少しづつ落ち着き始めた馬には、

荷物が括り付けられていた。

皆が集まるところへ、馬を連れて行く。



男たちが荷物を降ろし、順番に積荷を開ける。

装身具や金目のものが次々と出てきた。

最後に、小さな軽い風呂敷包みを開けると、

中から青色の布が出てきた。



数日前、有馬の里にやって来て、

火事から「すず」を救ってくれた、

真由美が最初に身に着けていたものだ。



この里の者なら、

誰もが目にし、驚き噂した、

見覚え聞き覚えのある衣装だった。



「真由美さまのだ!」

「まちがいない!」

直ちにお舘さまの元へ、早馬が走った。



村人たちは山に真由美と西宮がいるとみて、

山狩りの準備に入った。



あたりは騒然とした。



一方、

真由美達は最初、港を目指していた。

敵の後発組に鉢合わせする危険に怯えながら、、

二人手をつないで急ぎに急いだ。



暗闇の中、

山道の移動は、想像以上に困難だった。



真由美の頑張りもむなしく、

慣れない山道に時間ばかりが過ぎて、

西宮の足取りがだんだん遅くなってきた。



それでも大丈夫と言う西宮は、

肩からの出血が止まらず、

血染めが拡がるばかりだ。



このまま止血せずに走り続けたら、

我慢して歩き続けたら、

西宮さんの体力が持たない。

真由美でもわかる現実だ。



とにかく何処かで身を休めて、

明るい場所で

傷の確認をしなければ。

止血しなければ。



ここはどの辺りだろう。



西宮に尋ねる。

下り道とはいえ、

港まではまだまだ時間がかかりそうだ。



いや、

港に戻ることしか頭になかったけど、

逆に、

「有馬まで、どのくらいかかるの?」と聞けば、

登り道だが有馬の方が近いと言う。



選択するまでもないだろう。

真由美の独断で、有馬に向かう事にする。



途中、

月明かりが二人を草むらへと導いてくれた。



えっ、ここは…

この風景は知ってる!?



確かに知っていた。

この世界で、一番最初の夜を過ごした場所だ。



有馬の集落まであと少しだ。

でも、歩くにはまだもう少し距離がある。

とりあえず、傷の確認と止血が先だ。



集落へ続く道を、

黙ってどんどん外れていく真由美に、

怪訝な表情の西宮。

痛みで声も出ない。

立木の側にそっと西宮を座らせる。



真由美が、

こんもりした木々を払いのけると、

西宮が生まれてこれまで見たこともない白い塊が、

大きな小屋のようなものが現れた。



真由美は袂から鍵を取り出し、

ピッと電子で解錠した。