日が暮れて、灯篭に明かりが燈され始めた。

幽玄な風景に見とれてしまう。

今夜は大広間で宴が催されるらしい。



地図を前にお舘さまたちと話した後、

お舘さま側近の一人に呼び止められた。



「真由美殿、拙者は御影恭一郎と申しまする。

今宵は他国から使者がお越し故ゆえ、

ぜひ真由美殿にも一興もてなしていただけると有難い」と、のたまう。



「はいぃ??」声が裏返って、自分でもびっくりした。



間髪置かずに、一生懸命訴えた。

「子どものころから習い事はいろいろしましたが、

どうにもこうにも飽きっぽい性格で、

人さまにお見せするようなものは何一つありません。

それは、自信持って言えます!」



無言で無表情の御影さん。

聞いてます?心が読めない。



黙って立ち去ろうとする御影さんを、

追いかけるように言ってみた。

「あぁ、御影さん、お願い、私の話聞いてくださぁぃ」



振り向きもせず、有無を言わさずに行ってしまわれた。



よし乃さんや他の女性たちは忙しそうに立ち働いていた。

かなりの来客なのか、準備される食器の量がすごい。

どこから持ってきたんだろう。

いえ、そんなことより、どうしよう…

誰か相談に乗ってもらうにも、誰に聞けばいいのか。

「あまり役に立てそうもないな」とうろうろしていたら、

どこからかいい匂いがしてきた。



匂いのする方へ、罠にかかった動物のように、

吸い寄せられていく。

屋敷のはずれで男性が二人、何かを焼いていた。



「何をされているのですか?」

声をかけると

「あっ!真由美殿!」

人懐こい笑顔で答えるのは、久保田さんと鍋島さん。

聞けば、

仕留めた猪を焼いて、

宴に出せるかどうかを味見しているという。



「真由美殿もどうぞ」

差し出された一串を味見する。

新鮮でよく焼いてあるからか、生臭さはない。

ただ、もう少し味付けしてほしい。

ついでに「生ビールひとつ!」と注文したいぐらい。



猪は脂肪分が多いので、

冬場ならぼたん鍋が最高!なのだが、

お味噌や生姜のつけ焼きも美味しそうだ。

調理方法を提案したら、

早速味見をして、美味しさ倍増に目を丸くしている。

「これで御影殿に面目が立ちまする!!」と、

二人とても喜んでくれた。



宴が始まり、歌や踊りのおもてなしが始まった。

客人は明からの使節団らしい。

海路を通じて神戸の港で交易後、

温泉を楽しみに来たようだ。



賑やかに、楽しそうに宴は進んでいく。

宴もたけなわ、

ポーカーフェイスの御影さんに呼ばれた。



「真由美殿、ご準備よろしいか?」