大きく広げられた地図には、

墨で地名や地形が描かれていた。

私が知っている日本地図よりもずんぐりしているけど、

海岸線や大小の島々はまぎれもなく「日本」に違いなかった。



皆が固唾をのむ中、

私は京都を指さして、

「ここから来ました」と答えた。



お舘さまは重ねて、

「いまお主がいる場所を指してみよ」と問う。



覚悟を決めて、

「確かにはわかりかねますが、たぶんこのあたり、有馬でしょうか?」と、

兵庫県有馬温泉あたりを指さす。



「!!!!!」

緊張感、緊迫感、不信感、警戒心、猜疑心…

いろんな感情が部屋の空気に浮いてる気がした。



最初に自己紹介してくれた久保田さんが、

心底驚いたという風に声を張り上げた。



「真由美殿は地図が読めるのでござるか!?」



地図を見て答えることがそれほど驚くこと?



この時代、

地図は門外不出で

軍事上極秘に厳重に管理されていた。



女性が地図を見る機会も、

他の地域を知る手段も、

かなり限定されていたということを知る。



普段、何気に、

グーグルマップで、

自動車のナビで、

住所検索や経路検索をして、

地図やストリートビュー機能を使いこなし、

衛星写真で地球上の各地を見ていた私。



「地図は極秘なり」

雷に打たれたような衝撃だった。

想定外の事実。

たしかに、隣の県が白地図というのは見たことがない。



武器や兵の数だけでなく

この時代もまた、現代と同じく

「情報」を先んじる者が力を得ているということか。



確かに、地図があるのとないのとでは、

180度状況が違ってくる。

地形で生死を分けたり、戦の勝敗のみならず、

ひいては歴史さえも変えてしまうと認識した。



問う方も答える方も時間を忘れて、質問し答え続けた。

近隣の情報が目の前で書き込まれていく。



この場所は「有馬」で間違いなかった。



昨夜の火事は、たぶん温泉ガスが原因だろう。

最初に爆発音が聞こえた。

窪地にたまったガスが何かに引火したと考えるのが自然だ。

専門家ではないけれど、自分なりの考えを説明した。

次の被害を少しでも未然に減らしたいから。



誰もが驚いた。そして、納得した。