障子を通して朝日が差し込む。

まどろみながら

「今日もいいお天気」と呑気に考えてる。

時計を気にしない朝なんて、何十年ぶりだろう。

というか、今何時?



昨日、一昨日と人生がひっくり返った。

そして、今朝は布団で目覚めることができた。

ドラマチックな展開に、

頭と身体の疲れは半端ないけど、

心は充足感にあふれている。



しかし…身体中が痛い。

節々が悲鳴を上げてる。

起き上がろうとして

「あいたたたっ!」

実際に悲鳴となって、口に出る。



「よし!頑張ろう!」

自分に気合いを入れて、

「何を頑張るの?」

そんな疑問は飲み込んで、

急いで身支度をする。



顔を洗い、髪をクリップでまとめ、

昨日の着物に着替え、薄化粧をした。

賑やかに声のする方へ向かう。



たくさんの人達が行き来する中、

会う人、出会う人が、

みな親しげに声をかけてくる。



「真由美さま、おはようございます!」

「真由美さま、よくお休みになれましたか?」

「真由美さま、昨日は大変でしたね。」



昨夜の出来事が、もう広まっているようだ。



田舎の朝は早いというけれど、昔の日本はもっと早かった。

とっくに朝餉は済んでいた。

申し訳なく、

用意された朝ごはんを頂き、片づけをした。

「真由美さま、おはようございます。お舘さまがお呼びです」と、

よし乃さんが迎えに来た。



よし乃さんに連れられ、

昨日の広間とは違う部屋に通された。



部屋では、お舘さまと数人の男性が話し合っていた。

その中の一人が私に気づき、声をかけてきた。



「真由美殿、おはようございます!

昨夜は格別のお働き、お見事でございました!

拙者、久保田昌之、深く感服いたしました!」



「あっ、ありがとうございます」

急に話しかけられ、どぎまぎしてしまった。

久保田昌之さんというんだ。元気な人だなぁと思う。



「真由美殿、拙者は鍋島慎之介と申しまする。

あの場で何が起こったのか、

拙者にはさっぱりわかりませなんだ。

是非とも何をされたのか、訳を教えてくだされ。」

この人は、鍋島慎之介さんという名前か。



その場にいた人達が、

次々に名乗りながら、質問をしてくる。



仕事では、

名刺交換をして企業名や肩書を確認し、

特徴を掴み名前をインプット。



相手企業との関係性を考え、

失礼のないように対応してきた。

ここでは、これまでの交渉術が全く役に立たない。



相手の背景や意図がわからないまま、

質問にストレートに答えてよいのか、

自分の置かれている状況も頼りないのに、

余計なことは言えないと口ごもる。



黙って様子を見ていたお舘さまは、

「お主に聞きたいことがある」と言って、

地図を広げた。



「再度聞く。お主はどこから来たのじゃ」