是からだと思っていたホストに、二度と会えなくなった私は、大泣きした。何も知らされていなかった辛さ。あの日、抱きたいと言ったのは何だったの?
つまり三回会っただけの客に話す必要を感じなかったんだろう。
彼は、幼馴染の華織(かおる)と新店を出す為に辞めた。ネット情報だ。この頃から、少しずつネットが活躍する様になってきた。情報交換ツールとして。過激な表現もあるけれど、私は知りたかった。
連絡なしという選択をされたのに、私は会いたくて仕方がなかった。どうしてだろう、放っておけなかった。きっと魔性の恋に、落ちてしまったから。

新店は、あっさりと雑誌に掲載されていた。
新しい電話番号にかけ、彼が出る。
自分の説明をし、店に行きたい旨を告げる。
店に着くと、彼が出迎えて「久しぶりやな!」
久しぶりの花奏くん。嬉しかった。
「ずっと探しててんかー。」
「そうなん?」
「うん、また会いたかったから。」
「お前にしては、ようゆうな。」
「だってホンマに心配してんから」
「ごめんな。付き合い長いお客さんにしか教えてなかってん。」
「それはいいんだけど、私のこと覚えてる?」
花奏は、じっと私の目を見つめ「覚えてはいるで」
曖昧な答え。「まあ、3回しか会ってないけどな」
「まあ、そうやなあ。」
そこからはずっと、花奏が喋っていた。
自分についての内容ならば、よく喋るのだ。
帰り道、また花奏に会えるんだって嬉しかった。
まさか、あんな事を言われるなんて。

ひとりの少女の事を書こう。ネットで知り合い、意気投合した。華織の彼女で花奏の友達だと言い張っていた。月に百万以上は華織に使っていると。ヘルスの一位だと、自慢していた。弱冠18歳。正直、それ鴨だよね。そう思っていた。私も鴨だけど、身の程知らずではない。百万も使って本命な訳がない。
そんな彼女を、ひどく驚かせたのが、私の告白。

「カナと、やったん?」
「う、うん。」
「へえーカナは、やったりせえへんのにね。」
「…。」圧倒的に美化されてるな。
「でもな、ヘルスに行かへんともう会われへんねんて。」
「はあ?カナが言うたん、それ?」
「うん、はっきりと。」
「おかしない?」
「うん…。でも撤回はしやんと思うわ。」
「何で愛ちゃんだけに条件がつくんよ、絶対怒りに行くわ!」
「あ、ありがとう。」

それが彼女、由布との出会いだった。その時の私は自分に多少なりとも自信があり、由布みたいに地味じゃないと思っていたけれど、今思えば彼女は可愛くスタイルの良い明るい少女だった。気が強く、言いたいことを言い、自由奔放に生きていた。
そんなある日、由布と街を歩いていたら花奏に出くわした。全くの偶然だったけれど、由布はつかつかと花奏の前に立つと、凄味を入れた。
「一体どういうつもりやねん!」
花奏と由布がバトっている間、私はゲーセンで取れたぬいぐるみと遊んでいた。私には何も言えない。
1時間は由布に絞られた花奏は、私を呼んだ。

結局、由布が奮闘してくれても、ヘルス行きだけは免れなかった…。ホストとは怖い生き物である。
つまり稼いで貢献しろという話だ。この時してた仕事は、正直ヘルス並みに稼げていたけれど、そういうのは辞めろと花奏が言ったから。辞めた。
分かっていた、いつか危険があると。だが、ヘルスは危険じゃないのか?私を好きでもない花奏の為にそこまで出来る?

悩みがあれば、由布に電話した。
「私たちを汚いって思う?」
「それは…。」答えられなかった。
「汚いって思うから、やりたくないんやろ?」
「そうやないけど、普通に怖いねん。」
「うちの店くる?みっちゃんもおるで。」
みっちゃんとは、私が振られたバンドマンのスタッフをやってた子である。此れも凄い偶然だった。
今更紹介なんて頼めないけど、懐かしかった。
「分かった、紹介してほしい。」
「大丈夫?今日からくる?」
「…うん。」もうどうでもいいや、そんな心境。

由布と待ち合わせて、ヘルスSTARSへ。
由布がいるからか分からないけれど、アットホームな店だった。ただ客は選べないので、本当に死にたくなってホテルから戻った。カウンターでは、
「愛ちゃん大丈夫なんやろなぁ!無事やなかったら許さへんで!」と由布が凄んでいるところだった。
大丈夫じゃないけど、大丈夫と言った。
みっちゃんは私を見るなり、
「えー愛ちゃんやん!久しぶりー」
「みっちゃん、びっくりしたよー」
スタッフ時代はよく会話してたから。
そんな訳で、私のヘルス生活は始まってしまった。