「……どうして。昨日まであんなに笑っていたじゃない」

テレビ電話を通じてだけど、たわいもないことで笑って話していた。

3年前も、昨日も。3年分、一緒にいなかった代償がこれか。

3年分の空白はちょっとやそっとじゃ埋まらない。

「ムリだよね。こんな状態じゃあ。好きなひと、できたんでしょう。それならそのひとと一緒になればいい」

そういった瞬間。彼がわたしを後ろから抱きしめた。

スーツ越しに久々に感じる充彦の体温に自分の体の熱も急上昇する。

それでも冷静でいなくてはという理性を押し殺しながらも、しばらく充彦の腕のなかに収まってしまう自分がかなしかった。

「好きなひと、いるよ。胸のなかに」

耳元でそっと充彦がささやいた。

「じょ、冗談でしょ。だって、関係やめるって」

「不安にさせて悪かったな。今日は七夕だけど、そういえばサマーバレンタインっていうんだっけ」

と、ぎゅっと抱きしめていた腕を離し、上着のポケットからレモン色の小箱を取り出した。

「結婚しよう。僕と一緒になってほしい」

小箱を渡され、放心状態になりながらも、しぶしぶその箱を開ける。

なかには一粒のダイヤリングが光っていた。

「……充彦」

「ずっといいたくて我慢していた。3年分、いや、それ以上穴埋めさせてもらうから。これからずっと」

「ありがとう、充彦。お嫁さんにしてくれるのね。そうだ。バレンタインのお返しをあげなくちゃ。それならお菓子とかお花とか用意しておけばよかった」

「お返しならこれからもらう。まずは、キスからはじめようか。それからじっくり亜姫を味わうから覚悟しておいてよ」

充彦の大きな指先がわたしの顎先をとらえ、くいっと上に持ち上げられる。

ゆっくりと充彦の整った顔が近づいて唇が重なる。

時間が止まるんじゃないかっていうぐらい久々に味わうキスだった。

甘いお菓子よりも濃厚で濃密な二人の新しい夜がはじまる。

(了)