______20××年 春。
窓辺から見える桜は、その存在を主張するかのように風に揺られている。
木々のざわめきの音に耳を傾けながら、私はキーボードを叩いた。
今日は、定時で帰れるかな。
「作業中申し訳ありません。今年よりこの部に配属されたーーー」
作業に熱中していた私は、突然の訪れに身を強張らせた。
丁度その時、吹き込む風で書類の束が飛んで行ってしまった。
「す、すみません!少々お待ちくださいっ」
慌てて追いかけ、散らばった紙を急いでかき集める。
すると、私に話し掛けてきた人も手伝い始めてくれた。
「すみません…」
「不可抗力、でしょう。何が起こるかなんて、人は分からない」
どこかで聞いたことのある声。
弾(はじ)かれたように顔を上げた私は、目の前に居る人を見て硬直した。
「あ、あなたは…!」
彼は笑った。
「世界は狭いな。まさか、また会うとは思わなかった」
「う、嘘でしょ…」
春の訪れを告げるあたたかな風に前髪を揺らしながら、彼は口元を綻ばせた。
「俺は、水島 光希。…貴女は?」
受け取った紙の束を机の上に置き、私は目一杯息を吸い込んだ。
名前すら知らない存在だったけれど、これからはそうじゃないのか。
「私はーーー」
~fin~



