それでもキミが好きなんだ



そんなはずはない。
だって、彼は私がこの駅に来ることを知らないし、何時に駅に向かうかも知らない。

だから、いるはずがない。
幻聴だよ。会いたすぎて幻聴まで聞こえてしまったなんて重症だなあ。

そのまま、進もうとしたら「待って……!」ともう一度声がして、手首を掴まれてぐいっと引き寄せられた。

後ろからぎゅっと抱きしめられて、感じる優しい温もり。

後ろを見なくたって誰かわかる。
これが夢や幻じゃないこともようやくわかった。


「……サキ」


もう、会うことがないと思っていた。
だからなのか、声を聴いただけでこんなにも嬉しくてトクンと鼓動が高鳴る。


「……勝手に行くなよ」


弱々しいサキの声。
そして、息が荒れているからきっと走ってきてくれたんだろう。