もっと俺が空気を読んで笑っていたら母さんは俺たちのそばにいてくれたのかもしれない。
そんな思いが心のどこかにあるせいか、気づいたら空気を読むことが当たり前になってどれが本当の自分の笑顔なのかわからなくなっていた。
「でも、ナツだけは気づいてくれた」
「……」
ナツは俺のすべてに気づいてくれて、『そんなのサキらしくないよ』って叱ってくれた。
ナツの前では心の底から笑えて、いつからかみんなの前でも偽りの笑顔じゃなくなっていた。
「ナツのおかげで今の俺はいると思ってる」
「本当に夏葵のこと好きだな」
呆れたように、少し切なそうに笑った健吾。
そんな健吾の言葉をよそに俺は遠くの方を見つめながら言葉を発した。



