それでもキミが好きなんだ



それはいじめられていた頃の癖なのかもしれない。


「……知ってたならなんで助けてやらなかったんだよ」


これだけ詳しく知っていたなら、なんで助けてやらなかったんだ。


「俺だってつい最近まで知らなかったよ。
君も知ってるだろ?夏葵の性格を。言わなかったんだよ、誰にも。家でも普通に過ごしてたんだから」


ナツはずっと…ずっと苦しんでいたんだ。

何度も何度も心の中で助けてって叫んでたはずだ。

だけど、当然ながら誰も振り向かない。

どれほど明日が来るのが嫌だっただろう。
いったいどれだけの涙を一人で流したんだろう。

ナツの心の傷を考えるだけで苦しくて、息が詰まりそうなほどだった。


「それで、すべてに耐えきれなくなった夏葵は俺たちに“おばあちゃん家に行ってくる”とだけ書き置きしてここへ逃げたんだ」


だから、ナツは琴音に『逃げてきた』と言ったんだ。

重苦しい現実から逃げたくて、ここに来たんだ。