でも、目の前で泣いている彼女を放ってなんておけない。
ちゃんと大切にしてきた彼女なんだから。
ずっと、俺だけを見て、俺のことを支えてくれていた人だから。


「……ごめんな、気づいてやれなくて。辛かったよな」


そういって、泣きじゃくる琴音の頭を優しく撫でる。ごめん、琴音。

琴音が抱きしめる力を強め、涙でぐしゃぐしゃな顔を上げた。
そして、背伸びをしてキスをせがんできた。

───……誰にでも、キスできる?

いつか、ドラマでそんなこと言っていた。
もし、俺だったら……

“できる”とそう答えるだろう。
目を閉じて、琴音の唇に自分の唇を重ねた。

だって、本当に望んでいるものはいつだって手に入らないから。本当に心から抱きしめたい人は抱きしめられなくて、キスがしたい人にキスができない。

だから、誰にでもできてしまうのは、その悲しみや辛さから逃げるためなのかもしれない。