ジッ、と海を眺めながらさっき健吾から聞いた話をぼんやりと頭の中で思い出す。


『なんで琴音が咲都のこと“サキ”って呼ばないのか知ってる?』

『…知らないよ』

『呼ばないんじゃなくて、呼べないんだよ』

『え?どういうこと?』

『一回だけ琴音が“サキ”って呼んだことがあったんだ。
そしたら、アイツ「そう呼ぶな」ってすげー怖い顔して言ったんだよ』

『っ、』

『たぶんその呼び方してたの夏葵だけだったし、夏葵にだけその呼び方で呼んで欲しかったんだろうな』


───……それだけ、アイツの中でお前は特別なんだよ。


「ほんとにズルいなあ……」


そんなの、私だって同じだ。

特別すぎるくらい特別なんだ。


「っ、バカみたい」


私とサキはどうやっても結ばれないのに

こんなに想っていても想い合えない。

この三年間、苦しくても泣きたくても、消えたくなった夜も、サキからもらったビー玉をぎゅっと抱きしめてサキとの思い出に支えてもらっていた。