「……ナツ?」


そんな悲しそうな顔しないで。
なんて、言えるわけがない。

そんな顔をさせてしまっているのは私自身なのだから。


「それにここで過ごしたことなんて全部忘れたから」


「っ、」


そう、全部忘れた………
どこかに捨ててきたんだよ。


「ナツ、お前どうしたんだよ。
向こうで何かあったのか?」


どうして、どうして?

本当は傷ついているくせに
どうして平気なフリをしているの?


なんで……酷いことを言った私のことを心配してくれるの?


「……別にあんたに話すことは無い。
私、荷解きとかあるからもう帰る」


「おいっ…!ちょっと待てよ!」


私は隙を見て、彼の腕の中から逃げ出すと
全速力でおばあちゃんの家まで走った。


家について自分の部屋に戻ってヘナヘナと扉にもたれかかりながら座り込む。

走って逃げてきたから、まだ息が荒く呼吸がしずらい。
それは彼に会ったからなのか、ただ走って酸素を使いすぎたからなのかはわからない。


だけど、まだ私の鼓動はうるさく高鳴っていた。