兄と父親以外の男から自分の名前を呼ばれることに、若干の抵抗はあった…だけども、成孔なら自分の名前を呼んでもいいと美都は思った。

成孔はフッと微笑むと、
「――美都」
と、名前を呼んだ。

その瞬間、美都の心臓がドキッ…と鳴った。

(お兄ちゃんとお父さん以外の人に名前を呼ばれたから、ドキドキしているのかな…?)

この音を成孔に聞かれるのが怖くて、美都は彼から目をそらした。

「美都」

もう1度成孔が自分の名前を呼んだかと思ったら、頬に大きな手が添えられた。

その手はクイッと、彼の方へと向かされた。

「――ッ…」

眼鏡越しから見つめているその瞳から逃げることはできないと、美都は思った。

「――ずっと好きだったんだ」

成孔が言った。