何が起こったのか理解ができなかった。

重なった唇から感じたものは心地よさではなく、嫌悪だった。

背筋が凍って行くその感覚に、美都は吐き気を感じた。

「――やめて!」

ドン!

美都は力をこめて律を突き飛ばした。

「――ッ…」

律が驚いたと言うように自分を見ている。

(どうしよう…)

美都は律と重なってしまった自分の唇に指を当てた。

成孔以外の男とキスをしてしまった。

胃がムカムカとしていて気持ちが悪い。

胸の辺りに吐き気がこみあげてくるのが自分でもよくわかった。

唇に刻まれたその感触を洗い流したい衝動に美都は駆られた。

(成孔さん…)

彼に対しての罪悪感が胸にじわじわと広がってきて、美都は声をあげて泣きたくなった。