「ただいま〜」


午後5時。玄関から長男の声がする。


兄は美術専門学校に通っていて、だいたい毎日この時間に帰ってくることが多い。


「さっきまたわかんない女の人に声かけられたんだけど」


帰ってきて早々に兄は嫌々な顔で私たちにそう話す。


「兄ちゃん嫌われてるんじゃない?」


「え?俺嫌われてたの?何で…?」


次男からの鋭い言葉が兄の心に刺さったのか、少し悲しげな表情を見せた。


「航兄しらないの?お兄ちゃんは近所でもモテるって有名なんだよ!かっこよくてみんな声かけてくるんだからモテモテじゃん!」


嬉しそうに話す香恋。普段はこんな可愛い子だが、モデルやパソコン操作しているときはまるで一匹狼のように変貌する。


次女の香恋は高校一年、次男の航士は高校三年、香恋には兄が二人いるので、航士のことは航兄と呼び、長男のことはお兄ちゃんって呼んでいる。


「あーそゆこと?兄ちゃんモテるんだね」


青春真っ盛りの次男は、「モテる」とか「かっこいい」という言葉に敏感な様子で…


「んー、なんかよくわかんない!って、あ!そろそろ音ちゃんの生中継ライブ始まるわ!」


兄は急いで自分の部屋へ向かっていった。今言った"音ちゃん"というのは、兄が好きな二次元のキャラクターの名前である。


長男の大輝は、外見イケメンの、中身は二次元を愛する重度のオタクなのです。