(単純すぎる?阿呆?馬鹿?…男をオトすのに手段は選ばないわ。何と言われようが、絶対に成功させてやるんだから)


『優羽!今消火器を通過した!間もなくだぞ!』


「オッケー、真琴。突入するわ。切るわよ」


ご武運を、と。どこぞの大河ドラマに出てくる女御(にょうご)のようなセリフを吐く真琴に笑ってしまったが、深呼吸をして落ち着かせた。

大丈夫、自分を信じるのよ、並木優羽。

数多の男のハートを掴んできたのだから。


(さん、にー、いち…!)


いざ、行かん!


「――きゃっ…!?」


今世紀最大にバッチリなタイミングで角を曲がった私は、想定通りに曲がって来たアイツの胸板目掛けて頭をぶつけ、後ろに倒れ込んだ。

ぶつかった拍子に手に持っていた教材も落としたし、いい香りも漂わせてきた。

なんて素晴らしいんだ、私。

全てが筋書き通りに――


「……ごめん」


頭上から降ってきたのは、耳に心地いい低い声だった。