「そんなことはないであろう」


「あるもん」


私は子供のように頬を膨らませるなり、頬杖をついた。

横目で真琴の様子を見てみれば、予想通り、叱られた子犬のように申し訳なさそうな顔をしている。

ああ、もう、真琴のせいじゃないんだよ。


「…悪かった。いきなり突入して、勘違いをして、飛びかかって…」


「真琴のせいじゃないってば」


私は明るく笑ってみせた。

本当に、真琴のせいではない。私の所為だ。


「…オホホって笑いながら、脱兎のごとく退散した私が悪いんだから」


「うーむ…」


そう、あの時――保健室に真琴がやって来た時。

篠倉に飛びかかった真琴を引っぺがした私は、「オホホ、それでは御機嫌よう」と笑いながら、保健室を出て行ったのだ。

エンジェル並木が下品に笑いながら、だ。


(…絶対あれでバレたと思うのよね。私がイイ子ぶってんの。で、西園寺を狙ってるの)


表向きな顔を取り繕って近づくのは、西園寺を狙う女子の共通点だ。フラれてきた数多の女の共通点でもある。

だから私は、あの一件以来西園寺に近づいていないのだ。