「だいじょうぶ。…西園寺くん、待ってるよ?私のことはいいから、行かないと」


これぞ、マイエンジェルと叫ばれる女子の顔。

自分よりも相手のことを優先し、ふわふわとその場から消えるのだ。

まあ、この後は95%の確率で手を掴まれ、引き留められるんだけど――。


「…待って、」


ほら見ろ!大当たり!

神よ、見たか? 見事に釣れたぞ。

私は心の中で微笑みながら、ゆっくりと後ろを振り返った。

そして、困ったように微笑むが。


(え、え、えええ!?)


なんと、私を引き留めていたのは西園寺だった。


(アレ、おかしいなー。予定が狂ったぞ)


予定では、ここで私を引き留めるのは男子生徒のはずだった。そして、保健室に行こうと言われるが、そこで断ってサヨナラをする。

その間際に名前を訊いて、西園寺にも私のことを知ってもらう。

これぞ、ぶつかった相手が違った時に思いついた第二作戦なのに。


「放って行けないよ、並木さん。…血が出てるから、保健室に行こう」


ちょーと予定が狂ったけど、まあいいか。

ていうか、あれ?

今、私の名前を呼んだ…?


「西園寺くん…?」


私は西園寺に手を引かれるがままに歩き出した。