「……アオ」


西園寺の訪れに、ほっとしたような顔をする黒髪の男子生徒。
やって来たアイツはアーモンド型の目を細めると、ふんわりと微笑んだ。


「大丈夫?」


「…俺は平気だけど」


そう返事をした男子生徒が、ゆっくりと私を振り返る。それにつられるように、西園寺も私のことを見た。

ああ、待っていたよ。この時を。

邪悪なる魔王を封印する時が――じゃなくて、西園寺をオトす第一歩を踏み出す時が。

私は亡き祖父のことを思い出しながら、瞳を潤ませた。

ごめんね、おじいちゃん。あなたのことを思い出さないと、泣きそうな表情を作ることが出来ないの。

俯き加減な顔、グロスで艶めく唇、甘い香りがする全身。そして、今にも泣きそうな瞳。

最強装備で挑んだ私は、大技を使う。


「……ごめんなさい、わたしが前をよく見ていないせいでぶつかってしまって」


これぞ、誰もが守ってあげたくなるような、庇護欲をそそる女子の顔。だが、見た目や話し方は清楚系女子そのものだ。

私は多くの男子をこれで落としてきた。

アイツも思わず胸がきゅんとするに違いない。