季節は桜の花が満開に咲く頃。

全力疾走し続け、たどり着いた場所は校門前。

周囲を見渡せば、今日も女で溢れている。

この場所で彼女たちは、ある人物がやって来るのを待っている。



(最悪っ、なんで寝坊したのよ私…!)



目指すは昇降口。恐る恐る人混みの中へと身を投じれば、待ってましたと言わんばかりに、雪崩の如く女たちが押し寄せてくる。


「ちょっと、押さないでよ」

「その場所は早朝から私が…!」

「いいえ!私よ!」


芸能人の出待ちと言っても過言ではないこの光景は、もはやこの学園の名物と化している。

ぞろぞろと登校してきた男子生徒たちが、「またかよ」と言わんばかりに好奇な視線を向けてくるが、乙女たちは気にしない。


(明日は寝坊するもんか…!)


制服の胸ポケットから手鏡を取り出し、軽く身だしなみチェックをする。乱れた髪を直し、リップを塗りなおした。
汗ばんだ肌にブラウスが張り付き、不快感を失くそうと襟元を仰いだが、すでに時遅し。


「「きゃあ~~王子~」」


校門の前に停まったのは、白塗りの一台のリムジン。

運転手が開いたドアから姿を現したのは、眉目秀麗なこの学園の王子様。


「おはよう、みんな。今日も早いね?」


そう言って、柔らかな微笑みを浮かべた王子は、取り巻きに相槌を打ちながら昇降口へと歩いていく。

平日の朝8時半、校門付近。

“私以外”の女たちの努力が報われる瞬間である。