その腕から逃れサクラの元へ行きたいと脚が心が言う。でも、それ以上に抱きしめる腕は強くて逃れられない。


「もう、いいんだ。もう……。アズよく頑張ったな」


頭の上から心地良い低い声がして、強張っていた全身の力が抜ける。


「陽亮……」

「もう我慢しなくていいから」


髪を撫でられ、張り詰めていた糸がプチリと切れて大声で泣いた。


やっと心から泣けた。

私の横ではツバキとカエデが抱きしめ合い、私と同じくらい大きな声で泣いてどこかシンクロしているみたいだった。


陽亮が腕の力を弱め私をツバキとカエデのところに押し出すと、二人は私のスペースを開けてお互いの寂しさや悔しさ、焦燥感を埋めるよう寄り添い、また泣いた。




ひとしきり泣き、落ち着いた頃に陽亮は正面まで車を回してくれて乗り込む。
カエデの家に着くとツバキも家が近いからと二人同時に降りた。


「じゃあ、また連絡するね」


二人に向けて言うと真っ赤な眼で微笑み頷いた。車が走りだしてからも見えなくなるまで手を振った。


いつだったか同じことしたっけ。
でもあの時は三人に向けてだったのに今は……


瞳を閉じれば変わらない風景。
開ければ変わってしまった風景が心に突き刺さった。


じわじわと血を流したまま心に刺さった刺は抜けることはないだろう。


でもいいの。
この痛みがあればずっと忘れないだろうから……