気の毒なオーナーさん…
トオルさんの冷たい態度にも驚かず、ちゃんと笑顔で会釈をしてこの場を後にした。

私はそんなオーナーさんを見送り、ちょっとだけ肩をすくめてトオルさんを見た。

でも、オーナーさんが出て行った後も、トオルさんの様子は変わらない。

目を細め深いため息をついて、私を探るように見つめ返した。


「加恋ちゃん…
加恋ちゃんは、俺に嘘をついてたんだ…」


嘘という言葉が、私の胸に刺さった。
嘘をついていたのは間違いない…
でも、嘘っていう言葉が持つ悪意のあるものではなかったと私は思ってる。
本当に自分勝手だけど…


「ごめんなさい…

でも、トオルさんを騙すとかそんなのこれっぽちも考えてなかった…

事務所には籍は置いたままだけど、モデルの仕事はしばらくはするつもりはなかったし。

結婚して、トオルさんの妻になって、写真の学校に行かせてもらって、それはそれでちゃんと充実していたし、すごく幸せだったもん…」


私はトオルさんを傷つけてしまった。
私の事を全てで愛してくれるトオルさんの事を裏切ったのかもしれないと思うと、それだけで胸が切なくなった。