一人家に取り残された俺は、未だ放心状態だった。

死んだりなんかしないよな…
また、究極論にいきついて、自分で自分を苦しめる。

とにかく加恋のそばにいてあげたい…

加恋が準備していた荷物を取りに寝室へ入ったら、今まで何も感じなかった真新しいベビーベッドが、突然俺の視界に入ってきた。

ちょっとだけドキンとした。
でも、父性と呼ぶにはまだまだ未熟で何も形になっていない。

俺はそんな事を考えながら、猛ダッシュで病院へ向かった。


南国リゾート風の特別室は、戦場と化していた。
先に破水したせいで、加恋の体に急激に陣痛が襲ってきたらしい。

断末魔のような加恋の痛々しい叫び声は、隣でしっかり手を握っている俺の体力をも奪っていく。


「加恋ちゃん、頑張れ…」


そんなに苦しいのなら、もう子供はいらないよ…
なんて言葉は死んでも発せられないけど…

でも、俺にとって、加恋の苦しむ姿は、心臓をえぐり取られるようなそんな痛みが伴った。


それから、一体何時間経ったのだろう…

加恋は隣にある分娩室に移動した。