俺は加恋を車に乗せると、裏道を使って事務所まで急いだ。
加恋は俺の肩にもたれたまま、目を閉じて眠っている。
この寝顔を俺は守るだけだ…
金も知識も経験も兼ね備えた30男は、向かう所敵なしだから。
「中山様、お待ちしておりました」
俺はこの社長の事があまり気に食わない。
でも、さすがに“EOC”に勤める人間として、そこは上手に対応する。
超一流の会社で働く人間は、感情を表に出す事を好まない。
もちろん、俺だってそうだ。
加恋が関わる問題でも、そうであると願っている。
いや、そうでありたいが正しいかもしれないが…
社長室に通された俺と加恋は、奥の応接間に先に人が待っている事にすぐに気付いた。
そして、その人が誰だか分かると、加恋は最高級の笑顔でその人に歩み寄る。
「町田トレーナー、お久しぶりです!」
加恋のその挨拶にその男はしなやかに立ち上がった。
「よ、加恋。
今回はすごいチャンスを掴んだな。
僕も自分の事のように嬉しいよ」
加恋??
呼び捨てか??
俺は瞬時でその町田という男が大嫌いになった。



