俺はわざとらしく大きくため息をついた。
今の状況でその町田に会う事が最優先とは思えない。
一番に考える事は、早く家に帰って加恋をベッドに寝かす事だ。


「ねえ、その約束、今度にしてもらおうか?
今から社長に電話してみるよ」


俺がそう言うと、加恋は俺の腰をつねった。


「いてっ」


俺の腰をつねってるくせに、加恋の顔はやたらと真剣だ。


「もう大丈夫だから。

トオルさん、今の私のモデルとしての評判は、思ってる以上に期待されてる。
だから、皆に迷惑をかけたくないし、ガッカリもさせたくない。

無理だと思ったら、ちゃんと自分で見極める。
できそうにない事をやろうなんて思わない。

でも、今の私は、やりたい、やれるって、心から思ってるんだ。
だから、大丈夫…
心配しないでいいよ。

でも、ありがとう、愛してるよ…」


俺は歯がゆさで頭がおかしくなりそうだった。
モデルの仕事が体力勝負だということを、あまり知識がない俺でもそれは十分に分かっている。

俺の愛する加恋は、実は生真面目で頑固者だ。
見た目からは想像がつかないけれど…

恋に支配された30男は、そんな新たな一面に極力弱い。

恋に支配された30男は、ちょっとしたギャップにもコロッとやられてしまう。

恋に支配された30男は、とにかく加恋が関わると何にでも弱かった。