そして、夕方になり、俺は、加恋を車で学校まで迎えに行っている。
いつもの場所で加恋を拾い、本来なら家へと向かうはずの車は、加恋のモデル事務所へ向かい始めた。


「トオルさん、社長から事情は聞いた。
町田トレーナーに会ってくれるんでしょ?
何だかちょっとだけ嬉しい…」


俺は何も返事ができない。
会うけど、町田さんの専属トレーナーの件ははっきりお断りするつもりだから。

それに、加恋の顔色が何だかすぐれない。
加恋の事なら全てにおいて俺は把握している。
だから、そんな俺が言うんだから間違いはない。


「具合が悪いのか?」


俺はそう聞くと、加恋のおでこに手を当てた。
…熱はなさそうだな。

加恋はこの話題になると、ちょっとだけ身構える。
その少しの変化さえ、俺は見逃さない。


「大丈夫…
いつもの事だから」


これも毎度の答え…
でも、今日の声の調子はいつもより覇気がなかった。


「その町田ってやつに、ちょっとだけ会うだけだから。
それが終わったら、すぐに家に帰ろう」


ちょうど信号待ちで車が停まったのをいい事に、俺は加恋の手の甲にキスをした。
加恋はくすぐったそうな笑みを浮かべ肩をすくめる。