トオルさんはちゃんと分かっている。
迷っている私の事を…
トオルさんの胸の鼓動の音に耳を澄まし、素直な胸の内を話すべきか静かに考えた。
「あ~、本当に、俺って全てにおいて矛盾だらけだな…
加恋ちゃんを世界一幸せにしたいって思ってるのに、今の加恋ちゃんはそんなに幸せじゃなくて、加恋ちゃんの喜ぶ事は何でもしてあげたいって思ってるけど、加恋ちゃんの望む事には首を縦に振れない俺がいる。
分かるよ…
こんなに綺麗で、そして若くて、事務所の人だって絶対に加恋ちゃんの事を手離したくない事を。
そして、加恋ちゃんも、自分の可能性を試したいって思ってる事もね…」
私は顔を上げて、困っているトオルさんに優しくキスをした。
それは別に何の意味もないキスのはずだったのに、どうやら、トオルさんにとっては媚薬?らしかった。
「俺の可愛い小鳥ちゃん…
その加恋ちゃんが挑戦したいって思ってるニューヨークのオーディションの話を詳しく聞かせてくれないか…?」
私はやっぱり素直になる事にした。
このチャンスを無駄にしたくない。
最終審査を突破する確率はきっとわずかなものだけど、でも、やっぱり挑戦したい。