バケツを人質にして、駐車場まで歩いた。

彼女は、不思議がりながらついてきてる。

誘拐犯だったら、簡単に誘拐できそうだ。

「乗って。」

助手席のドアを開けて声をかけると

予想どうり固まった。

「川原までドライブね。
明日からは、汲み置きの水で良いけど…初日くらい川の水がいいだろうしね。
石もいるから、ついでに拾って来よう」

なるべく自然に、カニのためだと説明して…………

「失礼します。」

折れた彼女が助手席に乗った。

最近分かったことだが…

どんなに嫌だと思っても…相手や周りを優先して…考えてあきらめがつくと

…………流される。

百パーセントだから、考えるというより……あきらめる為の時間なんだろう。

今回も…カニや時間を作ったオレのことを考えて、あきらめたはずだ。

座ったものの……

さすがに今回は、すんなり納得がいかないのか

動かなくなった。

見ているこっちが可哀想になって

『オレがとってくるから、部屋で待ってて。』と言おうとしたら

「あの…助手席って…初めてで…………。
あの…シートベルトって…どうやって……………」

「ええっ!シートベルト??」

固まった原因は……シートベルト???

「助手席って…初めてで…。
いつも妹と後ろに乗っていたから…………。」

「あぁ!それで。」と納得したふりをしたが………

普通………納得出来るか???

夏苗先生と彩先生…海晴先生が心配していた意味が分かった。

彼女は…男に免疫がない。

「彼氏の車は?」

「車を持った人は…。っていうか…お付き合いは…」

思わず

「付き合ったことないの??」って聞いてみた。

「彼氏は……いました。」

………………何だろう?ガッカリ。

「………………………たぶん。」

たぶん??彼氏がいたかどうか………覚えてない???

もしくは……彼氏かどうか分からない??

「えっと……彼氏かどうか…。お友達のような………」

やっぱりそうだった。

「シートベルトは、ここにはめるんだよ。」

顔をパタパタ扇ぐしぐさをするから「暑いのか」と聞くと

男の人と二人で車に乗るのも初めてだから緊張すると言った。

手を繋ぐのも……今日、オレとがフォークダンス以来だと。

本当に可愛い。

もっと色々聞きたいし、もし悩みが話せるなら……

相談にのって楽にしてあげたい。

もちろんそんなことは…夢のまた夢だけど………