……私が吹奏楽部に入部した理由は、全部玄蔵先輩だった。
入学してすぐに行われた部活動見学で、かっこ悪いことに私は学校の中で迷ってしまった。
それはまるで巨大迷路のよう。
学校から配られた校内図は、あまりにも簡素すぎて役に立たない。
ここの地区では1番の広さを誇っているこの中学。
美術部に見に行こうと思ったのに……。
人見知りのせいでまわりの人にも聞くことが出来ず、ただ1人焦っていた私を助けてくれたのが玄蔵先輩だった。
『どうしたん、迷子?どこの部活行きたいん?』
バリトンサックスを片手に、優しい笑顔で私に声をかけてくれたのだ。
たどたどしい私の説明を、玄蔵先輩は笑わずに最後まで聞いてくれて。
そのまま、美術部が活動している美術室まで連れて行ってくれたのだ。
1分でも多く練習したかっただろうに、その優しさがあまりにも申し訳なくて、それでいて嬉しかった。
道中緊張している私に、いろんな話題を出してくれた。
美術室までつくとちゃっかりと吹奏楽部も来てな、と誘われたけど。
莫大な部活動があるため、2日がかりで部活動見学をすることになっているこの中学。

