もうすぐ、玄蔵先輩のいる3年5組が出てくる。

 玄蔵先輩は背が高いから後ろの方のはずだ。

 ゆっくりと体育館から出てきた3年5組を見つめながら、演奏を続ける。

 私の瞳が玄蔵先輩の姿をしっかりと捉える。

 あと少し。

 あと、5メートル。

 ゆっくりと目を閉じる。

 そして、玄蔵先輩が私の前に来る瞬間、バリトンサックスのソロが始まった。

 ちらりと外へ視線を見る。

 玄蔵先輩と目が合った。

 泣き跡がこの距離からでも分かるくらいハッキリと見える。

 玄蔵先輩は、卒業証書を左手に持ち替えて、私に手を振ってくれた。

"優衣ちゃん、かっこいいよ"

 そう、口パクで言いながら。

 ………先輩。

 あとで、ちゃんと口にして言ってもらいますからね。

 覚えててくださいよ。