『俺、恋愛とかよくわからへんから…ごめんな?』


 そう言って全部断ってたから。

 玄蔵先輩の鈍感さにはほとほと呆れる。

 それでも「好き」と返事をして貰えるだけ、私はマシなのかもしれない。

 けれど、けれど。

 ねえ、玄蔵先輩?

 1年半、ずっと隣であなたの事を見てきたんですよ?

 私の想いが、ただの後輩から先輩に向けた好きなわけないじゃないですか。

 いくらなんでも、気づいてほしいです。


「……そういう意味じゃないです」


 先輩に聞こえないように小さく呟く。

 呟いた後、私は何事も無かったかのようにバリトンサックスを吹き始める。

 何度繰り返したか分からないこのやり取り。

 玄蔵先輩は私のこと、面倒くさい後輩だと思っているだろうか。

 思われていたらやだなぁ、なんて。

 先輩は、譜面を読むのを再開させる。


 そんな普段と変わらない、相変わらずの放課後だった。

 ……私が吹奏楽部に入部した理由は、全部玄蔵先輩だった。