「文化祭、終わっちゃいましたね」

「そうだねー。あれだけ練習してきたのに、一瞬だったよね」

「あはは、たしかに否定はできません。……私たち、よく頑張りましたよね。たった2人で死ぬほど苦労して。でも楽しかったです」


 うんうん、とうなずく。

 バリトンサックスは全くと言っていいほど人気がなくて、俺が1年生の時に3年生の先輩が1人吹いていただけだった。

 その3年生が引退して、バリトンサックスは俺だけになった。

 だから、正直不安だった。

 頼れる人がいない。その不安が大きくなり、静かに肩にのしかかる。

 だから、先輩がいる同級生が羨ましかった。

 だから、優衣ちゃんがバリトンサックスを希望してくれたと聞いたときは、本当に嬉しかった。

 慣れない中で、あっという間に1年が過ぎて、俺が部長に選ばれて。

 今まで以上に忙しくなった俺を、優衣ちゃんは笑顔で支えてくれた。

 優衣ちゃんには苦労をかけた。

 何度も謝る度に、優衣ちゃんは大丈夫だと言ってくれた。

 そして、いつも『好きです』と言ってくれた。

 それが、嬉しかった。

 ただ、ほかの男子と話していると少しだけモヤモヤした。

 けれど、優衣ちゃんは優衣ちゃんなわけで…俺の方がおかしいというのは分かっていた。

 この気持ちがなんなのか、よく分からない。