君がいなくなったって【短編】




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「ヒロくんがいなきゃ、ナナミはこうなるわけね」


授業はとっくに終わったよ、と丸めたノートで机に項垂れている私の頭をポンポンリズムよく叩きながら、リコは困ったように言った。

ヒロに会った翌日。

授業が頭に入るわけもなく、7時間ずっと机に伏せて結局キーホルダーもシャーペンも捨てれなかったなぁ、なんて考えていた。

そんな私を見て先生も何かを察したらしく、そっとしておいてくれた。


「ヒロくんが浮気なんてするわけないと思うんだけどなぁ」


「浮気じゃなくて本気だよ。
きっと私とはとっくに終わってたんだよ」


「私、そういういじけた発言ものすごく嫌い」


傷心の友人を労わる、という発想はないらしい。思い切りポコンと音を立てて叩かれて起き上がる。


「私だってヒロが浮気なんてするわけないと思ってる。
だからこそ本気なんだって気づいたんだよ」


「あーもう、じゃあ落ち込むな!
あんただって別れるだのなんだの言ってたんだし、お互いにこれで良かったじゃん。
ほら、帰るよ!」


「今日くらい優しくしてよ、リコ」


「はあ?私、優しさ100%で生きてますけど?」


そう言いながらリコは、自分のカバンと私のカバンを持って、反対の手で私の手を握ったまま歩き出す。


それはリコの優しさだと気付いて、「ありがとう」と呟くと、「べっつにー」と照れた声で返事が返って来た。