君がいなくなったって【短編】

「ヒロ」


荒い息をして眉間にしわを寄せるヒロの名を、そっと呼んでみる。


ずいぶん熱が高いらしい。


どうして?

小学校の時は年中半そでで、一回も風邪を引かなかった健康バカなのに。

私のことだけで、そんなになっちゃうの?

そんなに私のことを大事に思ってくれてたの?

自惚れと一緒に、ならどうしてそっけなくしたの、とヒロを責める気持ちが湧き上がる。


「バカ。
ヒロのバカ。
ヒロのバカヤロウ」


「そうだよ、俺はバカヤロウだよ!」


突然、ヒロが起き上がって叫んだ。


ゆらゆらとヒロの視線はさまよって、私で止まる。


「へ、ナナ?
あれ、これは夢?」


ふらふら上半身が揺れているのを、見ていれずに「あーもー!寝てなよバカヤロウ!」とヒロの肩を押し付ける。


枕に頭を沈めたヒロは、しばらく魂が抜けたみたいにぼーっとしていたけれど、不意に一粒涙をこぼした。


「ナナ。
俺、わかってたんだよ」


小さな子供みたいな顔で、私を見るヒロ。


「ナナは寂しい思いしてるだろうなって、わかってた」


ヒロの涙は止まらない。

熱のせいなのか、心が弱っているのか、ヒロがこんなに泣いているのを見るのは初めてで戸惑ってしまう。