あれから、寝付けないまま会社に行き。

電車の窓に映る自分の顔に、
ため息をついていたら…。

よ。寝られなかったのか?
と、隣にヨシタカが立った。

一瞬ムッとしながら、ヨシタカの顔を見て
ちょっとドキッとした。

からかうような顔をしてるなら、
怒りをぶつけられただろう。

同情してるような顔をしてるなら、
平気ぶって見せただろう。

でも…。

ヨシタカの顔は…
大事なものを見るような…
優しい顔だった。

つられて、素直になりそうな、
そんな顔だったから…。


寝られなかった。
彼のこと思い出して…
目が冴えちゃって。


強がりもせず、誤魔化しもしないで答えた。


ちょっとだけ、困ったような顔をした後、

悪かったな…今日も仕事なのに。
居眠りして、文句言われたら
俺、全力で代わりに怒られてやるから。

と、少し笑った。


彼のこと思い出したことには、触れないで
いてくれた。

許してやるか…。


あんたじゃないんだから、居眠りなんて
しないわよ。

そう言うあたしの顔を、ふわっとした
笑顔で見て、

あーら、失礼しましたーと、おどける。


ふふっと笑う自分に…少し驚いた。

こうやって…忘れて行くのかな…。


窓の外は、もう最寄駅で。

さ、行くぞ。と、ヨシタカが振り返る。

足早に二人で会社へ向かった。