情事の余韻も残さず帰り仕度をしている男に、女は言った。 『もう、帰るの?』 『ああ。娘が一人で家にいるからな。』 ネクタイを絞めながら、男は答える。 『妻が死んでから…いや、最近、少し娘の様子がおかしくてな…。』 そうなの、と答えた後に、女は遠慮がちに言う。 『帰らないで…。朝まで一緒にいてよ。一人は…辛いの。』 二年越しの若い恋人の言葉に男は微笑んで言う。 『娘を一人には出来ないよ。』 ・