「この病院のスタッフは優しくて、理由はどうあれみんな俺のこと『敦也くん』っていうだろ?葵ちゃん以外ね」

そっ、それは、私があくまで担当の理学療法士で、距離を保たないといけないっていう指名があったからで。

「俺が『葵ちゃん』って呼べば、葵ちゃんだって俺のこと名前で呼びやすくなる」

そんな患者さんにまで気を遣わせているなんて、もう小さくなるしかないじゃない。


「まっ、それもいいわけか。そこまでして、葵ちゃんに名前で呼ばれなくても良かったんだけど」

敦也くんの乾いた笑いが虚しく響く。

「本当は俺の心の、リハビリみたいなもんかな。怪我する前の自分に戻るための」

ダンベルをゆっくり床に置いた敦也くんの表情が一瞬曇った。