「実は、なりたいって思った時もあった」

屋上で歌っていることを知られていたら、もう観念して告白するしかない。

カーテン越しに居るであろう太田さんには聞こえない位小さな声で榎田さんだけに告白する。


「やっぱり」

榎田さんは私の様子に満足そうな表情を浮かべる。
「で、でも、歌手って手の届かない夢だから。現実を知った高校生の私は理学療法士になろうって思ったの」


自分のこと、こんなに患者さんに話したことなんてなくて、榎田さんの反応を見るのが怖くて視線を反らす。


「実は、俺……」

一瞬、無言の空気が2人の間をすり抜けていった後、おもむろに榎田さんが口を開いた。