どうして急に声が出るようになったのかという私の問いに、しばらく言葉を探している様子だった榎田さん。
やっぱり、一気に質問しすぎたかな。
黙ってしまった彼にそんな想いを巡らしていた私は、右下肢の関節可動域訓練を終了し、左下肢の関節可動域訓練に移ろうとしていた時だった。
「空から声が、」
「へっ?」
急に喋りだした榎田さんに、私は持ち上げようとしていた彼の左足を思わず落としかけてしまった。
「空から声が降ってきたから」
も、妄想?幻聴?
カウンセラーの先生に報告したほうがいいかな。
仕事モードの冷静な私がそんなことを頭の片隅で考えていたせいで、きっと曖昧な表情で頷いていた。

