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「声、出るようになったんですか?」
リハビリの時間も私の興奮は収まらないまま。
治療用ベッドで仰向けになっている榎田さんに、私は右下肢の関節可動域訓練を行いながら尋ねてみる。
いつもなら私の何気ない話も今後の方針の話をする時だって、表情一つ変えずに曖昧な返事しかしない榎田さんが頷く。
「急に?」
「そう」
榎田さんが小さく笑う。
「どうして?」
なんだか榎田さんと初めて会話らしい会話が出来ているような気がしてる。
榎田さんは、私の質問にしばらく答えを考えるかのように視線を彷徨わせる。
そういえば声が出ただけじゃない、榎田さんの表情も昨日とはまるで違う。
ほんのわずかだけど、瞳に力が込められていて表情だって考えたり、笑ったりと豊かになっている気がする。

