「王手」


「……参りました」

俺がようやく2人のいるテラスの隅のテーブルに到着した時には、2人の真剣勝負は決着してしまった。

将棋のルールなんて俺には分からないけれど、なんだか惜しい気がしてならない。

「さて、そろそろ夕飯の時間だな」

太田さんが車いすに付けていた渋い懐中時計を見る。


せっかくここまで一人で漕いで来たのに。
このテラスから食堂まではかなり距離がある。

体力が落ちている俺にはこれ以上車いすを漕ぐ力も気力も残ってなんかない。

俺を置き去りにした看護師長は、迎えに来てくれるのだろうか。

「行こう、一ノ瀬さん」

太田さんが一ノ瀬さんに声をかけた、その時だった。