「俺たち、同じ部屋だろ?みんなで仲良くしようぜ」
ドスのきいた声でにやりと笑った太田さんに若干の恐怖を感じながら、俺は首をぶんぶんと縦に小刻みに振る。
「みんなでって言っても、あの爺さんは分からないけどな」
太田さんはボソッと呟く。
太田さんのいう『あの爺さん』とは、俺の向かいのベッドの園田さん。
いわゆる寝たきりで、毎日夕方になると娘さんやお孫さんらしき人がやってきて「おじいちゃん」と優しく声をかけている。
反応なんてないけれど、みんな一生懸命声をかけて、少しでも反応があると顔を綻ばせて喜んでいる。
そんな様子を向かいのベッドでいつも眺めていた。
声なんて聞いたこともなく、呼吸音だけしか聞こえない向かいのベッドの園田さん。
何のために生きてるんだろう。
そう思うけれど、園田さんの家族の様子を見ているとどんな状態でも生きているだけでいいのかもしれないと思うことだって増えてきた。

