翼の折れた鳥たちは

夕暮れに近づいたテラスは、澄んだ空気がとても気持ちがいい。

身体に穏やかな風を感じる。

外の空気を感じるなんて、事故以来初めてだ。

『世界が広がりましたね』

昨日の星原さんの言葉が、ふと頭を掠める。

確かに、そうなのかもしれない。


「気持ちいいでしょ?」

「ハイ」

看護師長が俺の背中に声をかけたから、俺は頷きながら返事をした。


「あっ、いけない。もうステーションに戻らなきゃ!!」

俺が返事をしたのを見るや否や、看護師長はわざとらしく咳ばらいをして、そんなことを言い始める。

「ごめんね、敦也くん。なんかあったらすぐに呼んでね」

呼んでって言われても……。

星原さんが俺の声が出たことを知らせたのだと、その時気が付く。

でも気が付いた時には遅かった。


看護師長は、パタパタと足音を鳴らしながら、ナースステーションへと戻っていった。

俺は一人残されてしまった。

テラスの真ん中に。