◇◇◇
「榎田さん、夕食までここで起きておいてくださいね」
こっ、こいつ……。
昨日、ようやく普通車いすに変更されたかと思ったら、今日もナースステーション前のカウンターに車いすを停められた。
俺が恨めし気に視線を送ると絶対に気が付いているはずなのに、知らんふりしてにっこりと微笑む。
天使のような笑顔ってきっとこういう子の笑顔を言うのだろう。
「リハビリ、お疲れさまでした。では、失礼します」
星原 葵……、黙って笑っていれば可愛いのに。
あいつはやっぱり、悪魔だ。
夕食まで車いすに座って起きていろだなんて、あと1時間近くもあるじゃないか。
俺は思わず、小さなため息を吐きだした。

