てこの原理を使いながら、星原さんは小柄な体格で俺を車いすからベッドへ移す。

俺をベッドに横にして、車いすを片付け始めようとした瞬間、ふと視線がかち合った。

「ん?」

俺の顔を不思議そうな目で見て、首を傾げた星原さん。

「あっ、ありがと」

声が、出た。

「えっ?!声……」

信じられないものでも見る様な目で星原さんが俺を見つめる。

「えっ、いや……」

声が出た、あの日から失ったと思っていた声。

それが、出た。

「えっ、っと……。どういたしまして」

言葉を選びながら少しだけ頬をピンクに染めながら、星原さんがにこりと笑った。


俺の、世界が少し広がった。


星原さんの言葉を何度も胸の中で繰り返す。


俺はその夜、事故にあって初めて悪夢を見なかった。